大工について
今回は、木造住宅の建築工事において大きな役割を背負う「大工」という職種について解説したいと思います。
住宅会社が一般的な木造住宅を建築する際、その工事には様々な業者や職人が関わります。
その業者・職人は、「大工」をはじめとして、「基礎」「足場」「屋根・板金」「左官」「塗装」「電気」「水道」「ガス」「建具」「サッシ」等々、多岐にわたります。
これらの様々な業者や職人がスムーズに工事が進んでいけるように、現場を管理するのが「現場監督」の仕事なのですが、それでも個々の業者・職人の仕事の質は、良い家になるための大きな要素です。
その中でも特に「大工工事」は最も大きな割合を占めます。
仕事の量もそうですが、現場で工事をしてる期間も最も長いのがこの「大工」です。
例えば全体の工期が5か月とすると、一般的な工程で「最初の基礎工事の約1か月間」と「最後の仕上げの約1か月間」を除いた「約3か月間」は、ほとんど「大工」が現場に常駐して大工工事を行っています。その間にも様々な業者は出入りしますが、「大工」はほとんどその現場で中心的な仕事をしているのです。
「大工工事」の仕事の内容としては、基礎工事が終了した後に、「土台設置」「上棟」と基本的な構造躯体を組み上げるところから始まります。そして上棟以降も「屋根下地」「耐力壁施工」「天井・壁下地」「床材施工」「サッシ取り付け」「建具枠」「外壁下地」「石膏ボード施工」「造作家具工事」など、建物の基本的な工事のかなりの部分を担っているわけです。
「左官」や「建具」「屋根」「外壁」「クロス」などの仕上げ工事は、この大工工事の上に仕上がっていくのです。
つまり、木造住宅の品質の善し悪しは大工工事で決まるといっても過言ではありません。大工工事がいいかげんだと仕上がりも悪くなります。また、最悪なケースは新築時の見た目の仕上がりは問題なかったけれど、完成したら見えなくなる部分が数年後に悪影響を与えることもあるということです。
このように家の質を決める重要な「大工工事」なのですが、近年、高齢化や職人不足による「大工の質の低下」が大きな課題となっているのも事実です。
この大きな課題に対して、住宅会社としての解決方法は2種類あります。
一つ目は、「大工の腕によって家の質の差が出ない仕組みにする」という考え方です。
つまり、「経験不足で技術力が高くない大工でも問題がでない工事方法」という考え方です。具体的にいうと「材料は建築現場に運ばれる前にすべて加工されていて、現場ではそれを組み建てるだけ」や「素材自体にキズが付きにくい材料を多用して、技術力が足りない大工が神経質にならずに施工しなくても工事が可能となる方法」というようなスタイルです。
これは特に大量生産をモットーとする大手ハウスメーカーの考え方です。
これはこれで有効な一つの考え方であり、施工の難しい自然素材やオーダーメイドの仕様は対応が難しいですが、メーカーの標準仕様や工業化製品の新建材でよければ、これでも一定の品質は確保される家になると思います。
これは、私個人としては好きではない考え方なのですが、このような家でも納得されるお客様にとっては悪くないのかもしれません。
そして、もう一つの手法が「質の高い大工を確保して、その職人を中心に工事を進めていく」という考え方です。このスタイルであれば、施工の難しい自然素材なども問題ないですし、お客様の好みに合ったオーダーメイド的な仕様も対応可能です。
地域の工務店としては、本来であればこの手法がベストだと思います。
このスタイルは、工務店なら当たり前ではないかと感じるかもしれませんが、実はけっこう難易度が高い方法です。
良い大工が少ないといっても「年間施工棟数が少ない工務店であれば可能なのでは」と思いがちですが、実はそうでもありません。「大工」という職種は、その多くが独立した個人事業主であり、その収入源は仕事をやった分だけというケースがほとんどです。なので、絶えずどこかで仕事が入っている状態にしないと年間収入が安定しない仕事なのです。
年間2~3棟の工務店の場合は、「仕事がある時期」「仕事がない時期」の差が激しいので、質の高い大工を専属で繋ぎ留めておくことが難しいのが現実です。よって、その時々で空いている外注の大工を使うしかない事情も多々あるのです。
これでは、大工工事の品質を維持するのは正直難しいと言えます。
工務店が質の高い大工を専属で確保するためには、「社員として大工を抱える」か「安定した工事数のもとに専属大工を抱える」しか方法はないと思います。
しかし現実には、「社員大工」は現場がなくても給料を払わなければいけないので、経営的には負担が多く、だんだんと「社員大工」のいる工務店は少なくなっているようです。
これが工務店として経営的に難しいと感じる会社は、前述した大手ハウスメーカーのように、大量生産の手法を真似して、質が低い大工でも施工できるスタイルをとるしかないと思います。実際、地場の工務店でも「フランチャイズ」や「ローコスト方式」を取り入れて、このような方向で家づくりをしている会社はとても多いように感じます。
どちらが良いかを判断するのはお客様の価値観ですので、それぞれの特徴をしっかりと把握してから会社選びをされると良いと思います。
ところで、当社関工務所はどういうスタイルで大工工事を考えているかというと、もちろん後者の「質の高い大工を確保してオーダーメイドの家づくりに取り組む」というスタイルをとっています。
これは、創業から大工の会社であったこともありますが、以来ずっと変わらずに会社の理念において重要なこととして取り組んでいることです。
当社には、新築・リフォーム併せて11組の大工がおります。全員が「社員大工」もしくは「関工務所の仕事しかしない専属大工」で構成されています。「専属大工」も「以前は社員だったけれど、その後独立して当社の工事を専任でやっている」というような大工がほとんどです。
大工が自社の専属でやっているメリットは、「質の高さを維持できる」ということはもちろんですが、大工自身も当社の家づくりの理念を理解して取り組んでいるので、建築工事における考え方の行き違いがなくて、施工効率も良いということもあります。
ご存じのように関工務所は無垢材などの自然素材を多用しますし、現場で仕上げなければいけない造作工事もとても多い家づくりです。慣れていない大工にとってはとても「めんどくさい」「施工が難しい」家づくりですが、当社の大工は当たり前のように施工します。
現場監督との信頼関係もできているので、施工管理も他社よりもスムーズだと思います。
しかし一方で、「大工の高齢化」や「職人不足」という社会的な現実は、将来を考えると当社も真剣に向きあわなければいけない問題です。
それに対しては、毎年若い新卒の大工希望者を社員として受け入れて、自社での大工育成にも取り組んでいます。未経験の新卒の若者でも、最初の3か月は全寮制の大工学校に住み込みで入学させて、その後は先輩の社員大工のもとで、基礎からしっかりと技術を経験させていきます。
正直、途中で挫折してしまう社員大工もおりますが、それでもしっかりと技術を磨いて一人前の大工として成長してくれている若い大工をみると、この業界にいる一人の建築人として嬉しい限りです。
このように、安定的に技術力のある大工を確保していくということは、当社の大きなテーマとして今後も取り組んでいくつもりです。
もちろん、現在の家は「良い大工が施工さえすれば必ず良い家になる」というわけではありません。
設計スタッフが、お客様のこだわりを叶える設計やデザインを考え提案することも非常に重要です。
また、みなさんの暮らしを大地震から守る「耐震性能」や一年中快適に暮らせるための「断熱・省エネ性能」など、基本的な住宅性能もとても大事な要素です。
そして、現場の施工についても「大工」以外の様々な業者・職人がそれぞれ良い仕事をして、初めて「良い家」と呼べると思います。
それを踏まえて、これからも当社の技術力の高い大工の力を最大に生かしながら、当社のスタッフや職人業者のチームワークを高めていき、そして、一人ひとりのお客様が満足できる、大手ハウスメーカーにはできない「関工務所らしい家づくり」に取り組んでいきたいと考えています。
(株)関工務所 専務取締役 関敏孝